ぶどう山椒

ぶどう山椒に携わる人たち

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新田清信さん+冨岡武さん

「町に住んで、山に通う」
~新しい就農のカタチ

きとら農園
新田 清信(しんだ・きよのぶ)さん
冨岡 武(とみおか・たけし)さん

取材日:2019.5.14

きとら農園の新田清信さんは旧清水町出身。現在は海南市に住まいを構えて家族と暮らし、清水地域の山間部にある山椒畑に通うというスタイルで働いている。一方、横浜出身の冨岡武さんは有田川町地域おこし協力隊として着任し、境川地区で暮らし始めて現在で半年余り。お二人の語る新しい就農のカタチとは?

UターンとIターン 僕たちのここまでの“軌跡”

新田地元にいたのは中学卒業まで。高校は和歌山市、大学は愛知県へ進学。その後自衛隊に入ったけれどケガをしたこともあって続けることを断念し、東京に出て働き始めました。東京で出会った彼女との結婚を機に、田舎に帰って就農して食べていこうと考えたんです。

冨岡僕は一人だからいいけど、家族を連れて就農というのは結構思い切った決心ですよね。

新田ちょうどその頃、ぶどう山椒の需要が高まっていて、いい値段で取引されているという話を聞いていた。本気でやればちゃんと稼げるだろうと思って。それで山椒畑を作るために荒れた山林を購入して、整地して耕して苗木を植えることから始めました。山椒の実が収穫できるまでには5年かかる。そのタイミングで海南市に引っ越して、そこから車で一時間弱かけて山に通って仕事をしています。

冨岡僕は横浜生まれの横浜育ち。働き始めてからは名古屋や埼玉を転々としていたんですが、いつからか、これまで全く知らなかった場所で一から何かを始めてみたいと思うようになって…。移住センターなどに相談しながら決めたのが有田川町でした。今は、境川地区で一人暮らし。近隣の農家の方からいろいろ教えてもらいながら借りた畑に先日初めて山椒の苗木を植えたばかりです。


有田川町に来るまでは山椒に興味がなかったという冨岡さん

ぶどう山椒農家の一年

新田農業っていうと年中手がかかるというイメージがあるんだけど、実は山椒農家が忙しいのは4月から8月末くらいまでの半年弱。ただし、7月と8月のピーク時は本当に大変。うちは家族総出でなんとかやっているけれど。

冨岡収穫の時期が短いから、作業が集中するんですよね。

新田この辺りの山椒農家の平均年齢は80歳に近い。収穫の時期だけアルバイトを頼んでいた農家の主婦の方たちも高齢化。摘み取り作業が少しでも楽になるように、苗木を育てる過程で「収穫しやすい」木を作ることも大事なことです。しゃがまなくてもいい高さに実がたくさんなるように。

冨岡そういう木造りも含めて、面白いですよね。苗木を植える際にも、日当たりや風の強弱を考えてやらないといけない。

新田8月で山椒農家としての作業が終わった後は、僕の場合、秋は桑の葉を育てて「桑の葉茶」を製造しています。冬になると住まいのある海南市で庭師の仕事を請け負っている。嫁さんはもともとアパレルの世界にいたから、そういう関連の仕事を見つけて農業とは関係なく働いています。

冨岡山椒農家は、一年の半分以上は別のことをやれるというのがいいですよね。

フランスで気づいた山椒の「力」

冨岡実は僕は、有田川町に来るまで山椒にはまったく興味がなくて。こっちに来てから近所の方に食べ方を教えてもらおうと思って聞いてみたら、みんな「知らない」って。(笑)

新田そう。実は地元では昔から山椒は食べるものではなく作って出荷するものだったから。もう一つの名産のミカンとは違って、すぐに食べることができないから子どもの頃は僕もほとんど食べたことなかった。だから、昨年フランスでのイベントでヨーロッパの一流シェフに山椒を紹介したときの反応の良さに、僕自身、初めて山椒の凄さを気づかせてもらったんです。

冨岡どんな反応だったんですか?

新田フランスの人は「香り」に敏感で、粉山椒の香りをかいで「これは一体なんなんだ?」って驚いて。試食用に現地のシェフが山椒を使ったスイーツを用意してくれていたのだけど、そのアイデアにまたびっくり。チョコレートに使ったり、チーズと合わせたり。ヨーロッパでは山椒を柑橘の一種としてとらえているんだなぁと。

冨岡ぶどう山椒の香りはすっと鼻を通りますよね。先日、山椒を使ったパウンドケーキも食べましたがおいしかったです。

新田現地に行って初めてわかるってことがある。日本では考えられなかった用途でフランスを始め海外に販路が広がっていくのは、非常に面白いなぁと思っています。


標高600m。豊かな山の中にある、新田さんのぶどう山椒畑

山椒畑で実の大きさを確認する冨岡さん

僕たちがこの暮らしの中で見つけたモノ

新田山の中に移住して約半年。困っていることはない?

冨岡それが、あんまり困ってないんです。(笑)何か買い忘れた時には、一番近くのコンビニまで30キロくらいあるから「しまった!」ってなるけど、あとは快適です。早起きして外のテラスで日々移り変わる自然を感じながら過ごすのが毎朝の楽しみです。

新田都会から来てそれはすごいね。(笑)このへんは買い物はやっぱり不便で、みんな週に一回まとめ買いしている。家族がいる場合は、子どもの学校や奥さんの仕事のことを考えると僕みたいに町に住んで山に通うというやり方もある。

冨岡これから、ここでの暮らしをいろいろ考えながら僕自身の就農のカタチを構築していかないといけないと思っています。今年植えた山椒の木を5年かけて育てていくのも楽しみ。

新田農家って、ある意味とても自由な生き方ができると思う。サラリーマンが性に合ってないなぁと思っていて、自分の力でなにかを作り上げてみたいという人なら、きっと大きな楽しみをここで見つけられると思います。

Information
きとら農園

〒643-0521 有田郡有田川町清水757
TEL: 0737-22-7074

「きとら農園」ホームページ
https://www.kitora-nouen.jp/


新田さんは、ぶどう山椒の他にも、化学肥料・農薬不使用、天然の桑の葉を使用したお茶も作っています。
https://www.rakuten.co.jp/kuwacha-kitoranouen/
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