山椒は古来、薬として使われてきました。古くは中国において、その特徴的な香りが邪気を祓い、たわわにつく実が子孫繁栄につながると信じられるなど、吉祥の象徴であったようです。これは邪気を祓い、無病息災、健康長寿を願う「お屠蘇」という風習として現代にも受け継がれていて、ここにも山椒が使われています。江戸中期に書かれた『和漢三才図絵』には山椒について「その実は風邪を除き、身体を温め、歯や髪を丈夫にし、久しく服用すれば目を明るくし、顔色を良くする」とあります。山椒は現在も、健胃薬である苦味チンキや漢方薬の処方に用いられ、日本薬局方には生薬として収載されています。和歌山で生産されるぶどう山椒の約4割は製薬メーカーに納入されています。
山椒が用いられる代表的な漢方のひとつに、腹部膨満感や腹部の冷えの改善などに使われる「大建中湯(だいけんちゅうとう)」があります。元の処方では、蜀椒(Zanthoxylum bungeanum)という麻婆豆腐に使われる花椒の名前で知られる種類が使われていましたが、日本には蜀椒がなかったために、江戸時代に代用として山椒(Zanthoxylum piperitum)が用いられるようになりました。その結果、山椒のほうが効果が優れているとして、現在も山椒が用いられています。山椒は血液循環を促して代謝を高め、身体を芯から温める効果があるため、漢方では「温裏薬」に分類されますが、これらの効果は山椒に含まれる成分サンショオールの働きとして、科学的にも明らかになっています。
近年はポリフェノールによる抗酸化作用をはじめ、口腔ケアに重要なカンジダ真菌抑制作用、抗MRSA作用、さらには抗がん作用が見つかるなど、その働きに注目が集まっています。
山椒の香り成分(精油成分)には、リモネン、フェランドレン、シトロネラール、ゲラニオール、ゲラニルアセテートなどがあります。リモネンは柑橘類の果皮にも含まれる成分で、血行を促進する働きなどが知られています。ゲラニオール には抗菌作用があり、他にもさまざまな研究が行われている成分です。シトロネラールには昆虫忌避作用があります。またゲラニオールやゲラニルアセテートはローズ精油にも含まれる成分で、爽やかな甘みのある香りが特徴です。ぶどう山椒精油の香りには抗肥満作用があることが、地元企業である中野BC株式会社と和歌山医科大学の共同研究で明らかになっており、香りの効果についてさらなる研究が続けられています。