日本らしさを出しやすく、
どんなスパイスにも似ていない山椒
「カクテルに使うのであれば、山椒は柚子よりも日本らしさを出しやすいと思います」。そう語るのは豪華客船「飛鳥Ⅱ」のアシスタントメートルドテルの土田勇人さん。メートルドテルとはフランス語でホテルやレストランサービス部門のトップを意味し、飛鳥Ⅱではレストランバーを統括する料飲部長のような役職になる。船内にあるすべてのバーを見回りながら、時にはバーカウンターにも立つ。
「今、世界のバーテンダーが日本酒や焼酎、そして日本のボタニカルを使ったクラフトジンなど日本発のアルコールに注目しています」。日本のハーブやスパイスが香るお酒は、今後まだまだ”くる”という。そのような中、山椒は他のどんなスパイスにも似ていない、似ているものがないという個性があり、日本らしさを出しやすい。山椒には可能性があると語る。
カクテルの世界で山椒を楽しむ
「和の香りを持つ山椒ですが、洋酒にも合いますよ」と語る土田さん、実は建築家を志して大学に入学した。サービス業に惹かれたのはそんな学生時代のアルバイト先でのこと。「接客が無性に楽しかったんです。自分が作ったものでおいしいと喜んでもらえる仕事に就きたい。そう思うようになって」。そうして選んだのがバーテンダーという仕事だった。ジャンルは違えど「組み立てる」「作り出す」という点では建築と共通するのかもしれない。
カクテルに山椒を加えた時には「何だと思いますか?」と言いながら、何を入れたかを言わないほうが面白いのだそう。お客様は「何か知っているような…」と味や香りを探り始める。「山椒ですよ」というと、「あぁ!そうだ。そう言われれば山椒だ」と会話も盛り上がるのだとか。先入観を持つことなく、風味の中からわずかに利かせた山椒の香りを探る楽しさも提供してくれるようだ。その一方で「みりんなどを使って山椒を利かせれば、うなぎの蒲焼風味のカクテルもできると思いますよ」と話す。なんとも楽しげなカクテルが頭に浮かんでくる。