「ほんまもんの山椒を」
「山椒の魅力はどこですか?」と尋ねると、とり粋のご主人古本さんからは間髪入れずに「香りがぱーっと口の中に広がって、しびれがあとに引く。そしてその刺激が忘れられない。そこにありますねぇ」と満面の笑顔で答えが返ってきた。京都の人は本当に山椒が好きだ。春夏秋冬、京料理には山椒が欠かせない。「親子丼でも強制的に山椒が入ってますよねぇ」と古本さん。
ところが、市販されている山椒の中には、色も香りもなく、インパクトもない。山椒らしさを失っているものがある。「あれは山椒とは言わないでしょ。山椒ってこんなもんかと思われるのは悔しい。ほんまもんの山椒を知って欲しい」。そんな古本さんが作り出したメニューに「京山椒なべ」がある。鶏ガラを使って丁寧にひき、すり潰した山椒の実を合わせた特製のスープに、若鶏、ひね鶏、そしてたっぷりの野菜を入れていただく。滋味深く、記憶に残る味わいだ。鶏、山椒、野菜から出た美味なるスープに、最後はラーメンや山椒入り餅などを入れて味わい尽くす。体も心も温まる、お客を虜(とりこ)にするリピーター続出の看板メニューになっている。
ぶどう山椒との出会いで完成した
京山椒なべ
「これピッタリやん」。これはぶどう山椒と出会った時の古本さんの印象。当時、新たな店舗である三条店の顔となる「京山椒なべ」に使う山椒を探していた。イメージしていたのは、かつて京北(けいほく)にあった郷土料理の店で提供されていた知る人ぞ知る山椒鍋。特別な鳥に山椒を合わせたおいしい鍋だった。「あの美味しい鍋を、町中で、すぐに気軽に食べてもらえるようにしたい」。味を思い出しながら試行錯誤を重ね、スープと相性の良い山椒を探して、国内にあるいくつかのメーカーのものを試していた時に、偶然店を訪れた有田川町の人に紹介されたのがぶどう山椒だった。しっくりきた。「これピッタリやん」。こうしてようやく納得できるオリジナルの「京山椒なべ」が完成した。
古本さんは「山椒に感動したことがない人、食わず嫌いの人にこそ食べて欲しい」と言う。まずは薄めの山椒から。苦手意識を持っていた人も、食べすすめるうちに、気づけば銘々に味を調節できるように用意されている”追い山椒”をかけていると言う。