松田シェフの考えるフランス料理とは?
「フレンチの料理人になったのは、ヨーロッパで仕事をしてみたかったからなんです」。優しい笑顔でそう語り始める松田シェフ。ヨーロッパへの憧れをつのらせたのは、学生時代からプロになりたくて真剣に取り組んだサッカーだったという。「高校生のときにお小遣いをためてイタリアのサッカー合宿に参加しました。言葉はまったく分からなかったけど、それでも友達がたくさんできて、家に遊びに行って家族と一緒に食卓を囲む機会などもあってすごく楽しかったんです」。
そんな体験が、現在の緑山松田家にも活きている。緑の多い住宅街の中に佇む一軒家で、夜一組、昼二組の完全予約制でお客様をもてなす隠れ家レストラン。まるで知人の家の食事に招かれたかのようなプライベート空間でゆっくりとコース料理を楽しむことができる。「雰囲気は家庭的ですが、料理は本格的な正統派フレンチです」。そう語る松田シェフにとってフランス料理とは「ソースで食べてもらう料理」だという。
ぶどう山椒に出会って感じたこと
「本来のフランス料理は足し算の料理なんです」。和食との違いを、松田シェフはそう説明する。和食は素材の味をいかに引き出すかがポイントで、シンプルな食べ方や調理法を極めていくのが料理人の腕の見せ所でもある。「ある意味、和食は引き算の料理と言えるでしょう」。一方、フランス料理は素材の味にどんな味を重ねればよりおいしくなるかを追求するもの。もともとは、各地から贈られてくる魚や野菜の味、鮮度が安定しない中、常においしい料理を提供するために「ソースで食べる」ことで発達したという歴史もあったようだ。フランス各地での修業時代には、ソースの魔法でおいしく仕上げるという経験を積み重ねてきた。「自分の料理は古典です」とシェフ。今は素材勝負で引き算の料理を出すモダンフレンチが多い中、プラスのソースに手間をかけることを大切にしたいと言う。
そんな松田シェフが、ぶどう山椒に出会ったのはつい最近のこと。「第一印象は強烈でした。一粒かじったらしばらく口の中がしびれていましたから(笑)。この辛みを逃がして、よい香りを最大限に活かすにはどうすればいいのか?」——松田シェフの頭の中でこれまでの様々な記憶がぐるぐると回り始めた。