季節ごとの風味や食感が魅力
山椒は春には青々とした葉山椒、初夏には実山椒、盛夏から秋にかけて採られる実は乾燥山椒にと、季節を追って変化する。「部位によって使い方が違う。口に入れた時の味の広がり方が違うでしょう。葉はパンっと叩いて傷をつけると香りが出るし、実山椒は噛んだ時に香りが広がる。香りの出方もまったく違う」と話してくれるのは無苦庵の主人雲井さん。「だから料理に合わせて使い分ける。実山椒なら潰すのではなく、そのままの食感を使ったり、茹でこぼさずに山椒の香りを活かすこともありますよ」と料理を思い浮かべて語る雲井さんの表情は真剣だ。造りにはぶどう山椒の実を使ったジュレを添えて爽やかさを引き出したり、猪肉の低温ローストならタレに加えて辛味を足したりと、料理によって形も変えて使い分ける。経験を積み、考え方を広げることで、自ずと使い方も変わってくると言う。
地元の食材を探して使う
雲井さんは名古屋出身。移住者だ。だからこそ見つけられる食材があると言う。「地元の人が当たり前と思っている、でも県外の人にとっては珍しいものがある。何度も足を運ぶ中で、漁師さんの網にかかる珍しい魚を見つけることもある。逆にこんなものがあると地元ならではの食材を教えてもらうこともある」つながりを作ることが大事だと言う雲井さん。「田辺に来なければ味わえない料理を出したい」。だからこそ、休日は地元を歩き、地元の人たちと少しずつ信頼関係を築きながら、紀南・田辺ならではの食材を探す。
これまでに出会った食材で良かったものを聞くと、すぐさま「紀州岩清水豚」と答えが返ってきた。「これまで出会った豚とはまるで違う」と言う。特に火を入れた時の甘味、旨味、色に驚いたそうだ。田辺にきて約5年「まだまだ回りきれないんです」とまだ出会っていない食材との出会いを楽しみにしている。