ぶどう山椒

プロが語るぶどう山椒の魅力

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雲井利益氏

季節ごと、部位ごとに異なるぶどう山椒の個性が
同郷の食材と多様なハーモニーを生み出す

召膳 無苦庵
雲井 利益

取材日:2019.12.10

Toshimasu Kumoi

季節ごとの風味や食感が魅力

山椒は春には青々とした葉山椒、初夏には実山椒、盛夏から秋にかけて採られる実は乾燥山椒にと、季節を追って変化する。「部位によって使い方が違う。口に入れた時の味の広がり方が違うでしょう。葉はパンっと叩いて傷をつけると香りが出るし、実山椒は噛んだ時に香りが広がる。香りの出方もまったく違う」と話してくれるのは無苦庵の主人雲井さん。「だから料理に合わせて使い分ける。実山椒なら潰すのではなく、そのままの食感を使ったり、茹でこぼさずに山椒の香りを活かすこともありますよ」と料理を思い浮かべて語る雲井さんの表情は真剣だ。造りにはぶどう山椒の実を使ったジュレを添えて爽やかさを引き出したり、猪肉の低温ローストならタレに加えて辛味を足したりと、料理によって形も変えて使い分ける。経験を積み、考え方を広げることで、自ずと使い方も変わってくると言う。

地元の食材を探して使う

雲井さんは名古屋出身。移住者だ。だからこそ見つけられる食材があると言う。「地元の人が当たり前と思っている、でも県外の人にとっては珍しいものがある。何度も足を運ぶ中で、漁師さんの網にかかる珍しい魚を見つけることもある。逆にこんなものがあると地元ならではの食材を教えてもらうこともある」つながりを作ることが大事だと言う雲井さん。「田辺に来なければ味わえない料理を出したい」。だからこそ、休日は地元を歩き、地元の人たちと少しずつ信頼関係を築きながら、紀南・田辺ならではの食材を探す。

これまでに出会った食材で良かったものを聞くと、すぐさま「紀州岩清水豚」と答えが返ってきた。「これまで出会った豚とはまるで違う」と言う。特に火を入れた時の甘味、旨味、色に驚いたそうだ。田辺にきて約5年「まだまだ回りきれないんです」とまだ出会っていない食材との出会いを楽しみにしている。

「猪肉の低温ロースト ぶどう山椒添え」


あまごは当日の朝、生きたまま有田川町清水の養魚場から運ばれたもの。生きていなければお造りにはできないという

「おいしい」と言ってもらえることが嬉しかった

雲井さんが料理人を目指すきっかけになったのは父親のひと言だった。小さい頃の夢は大工になること。ところが小学3年の時、母親の入院をきっかけに初めて料理をした。すると父親が「おいしい」と言ってくれた。「おいしいと言ってもらえることは、こんなに嬉しいことなのか」と、夢は料理人になることに変わった。

高校生になると地元名古屋の活魚を扱う大手居酒屋でアルバイトをした。「料理人になりたい」と話すと、先輩に可愛がられ、好きなだけ現場で学ばせてくれたり、味を覚えるために食事に連れて行ってくれたりと、たくさんのことを経験させてくれた。高校卒業後は和食の道を志して京都の調理師学校へ。京都の和食店で働いた後、四万十へ移る。四万十の魅力は食材の良さ。食材は素晴らしかったと言う。

お客とともに作り上げる

そんな雲井さんが和歌山の田辺に来たきっかけは、田辺市が行なっている移住者支援事業だ。今後も出身地の名古屋には戻らず、ここ和歌山で「ここまで来ていただいたからこその料理を提供していきたい」と意気込みを語る。珍しい食材には最初はあまり手を加えずに、素材の特徴を味わってもらう。2回3回と回を重ねるごとに、徐々に手を入れる工夫をするという独自のスタイル。ゲストがどいういうものを求めるか ゲストと共に作り上げるのが雲井流。実際、地元よりも遠方からの客が多いという。「うちは”新しい世界”を求めてくるお客様が多いです」。だからこそ、お造りに添える”あしらい”も、地元で採れたエディブルフラワーを使うなど、既存の手法にとらわれることなく、伝統的な手法と新しい手法を織り交ぜている。

現在はぶどう山椒を使ったデザートも研究中。次はどんな食材に出会えるかも楽しみだ。


「あまごのお造り ぶどう山椒ジュレ」

ご飯は竈(かまど)で土鍋炊き。美味しそうな湯気が立ちのぼる

炊きたてのご飯に自家製の山椒入り食べるラー油をのせて⋯

召膳 無苦庵

〒646-0028 和歌山県田辺市高雄2-16-30
TEL.0739-26-560

営業時間:昼 11:00~14:00
夜 17:30~
定休日 :不定休

◎コースは完全予約制

ランチメニュー(火曜日以外)
¥1,200と¥1,500(税別)

コース
昼・夜ともに¥8,000〜(税別)
昼は11:00~12:30スタートの中で、
夜は17:30~19:30スタートの中でご予約が可能です。
ご予算によってお客様と相談しながら
食材と料理を決めさせていただきます。

https://www.sizenmukuan.jp/

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