ぶどう山椒

ぶどう山椒に携わる人たち

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松原正さん

いつか、高野山と有田川町を「山椒」で結びたい

株式会社全笑
取締役工場長
松原 正(まつばら・ただし)さん

取材日:2019.5.14

Iターンで有田川町へ

京都市内で生まれ育った松原正さんが、有田川町との接点を持ったのは29歳の頃。大阪での営業マン時代に取引先として出入りしていた工場でモノづくりの現場を目の当たりにし、「自らの手でものをつくる」ことへの憧れをつのらせていた。

「自分も、何かをつくる側に回りたい」。そんな思いを実現できる手段を探り始めた頃、旧清水町(現・有田川町)の役場が農業の担い手を募集していることを知った。求められていたのは、単なる期間限定のお手伝いではなく、3年にわたって金銭的・技術的サポートを受けながら、最終的には独立を目指している人材。そんな点に魅力を感じたという。この取り組みは、当時全国に先駆けて町が単独で始めたもので、松原さんはその第一期生となった。

支援を受けながらトマトの栽培に携わり、ものをつくる喜びを感じて、徐々に山の暮らしにもなじんでいった。だが、3年が過ぎた時、厳しい現実に直面することになった。「農業だけで食べていくのは難しい…」。経済的な余裕はなかったが、山での暮らしに愛着を感じていた松原さんに、この土地を離れるという選択肢はなかった。「ここに残ることを前提に、新しい仕事を探し始めました」。


新たなスタートで工場を軌道に乗せた松原さん

全笑の看板商品「ねり七味」と「にんにく唐辛子」

「全笑」との出会い

いったん農業から離れることを決めて、新しいやりがいのある仕事を求めていた松原さんが、株式会社全笑と出会ったのは、2010年の頃。顧客の拡大を狙って有田川町宮川にある工場を本格稼働させようとしていた、全笑の平野仁智社長の戦略に、松原さんの「ものづくりの仕事に関わっていきたい」という気持ちがぴたりと重なった。成功すれば、生活の安定と共に当初からの夢もかなえられる。松原さんの新たなチャレンジのスタートだった。

全笑では、自社ブランドのオリジナル商品も作っているが、メインの仕事はスパイスメーカーへの原料の供給やOEM(相手先ブランド製造)だ。その業務を確実に遂行するために必要な設備を整え、工場の機能をレベルアップさせるための努力が続いた。さらに、注文品のブレンドの割合を試行錯誤しながら完成させたり、出来上がった商品の日持ちのテストを行ったりと、品質の向上を常に意識することでお客様を増やしていった。

「全笑の名前は知らなくても、結構みなさん、うちの製品を召し上がっていると思いますよ」。七味や柚子胡椒、ちりめん山椒などの原料の唐辛子や山椒を加工して数多くのメーカーに提供している。

「3年住んだら離れる気はなくなった」という山の暮らし

ブームを作りたいわけじゃない

「スパイス業界での2009年の大流行、覚えてますか?」世の中から瓶が消えたと話題になった「食べるラー油」の大ブームは今も記憶に新しい。スパイス業界で仕事をする一人として、やはり意識せずにはいられないという。だが、松原さんはブームを起こしたいとは思っていない。それよりも、ずっと食卓に並ぶものをつくりたいと願っている。大ブームの渦中では粗悪品が出回ることがよくある。それを食べた消費者が、本物の味を知る前にがっかりしてしまうことをとても残念に思うからだ。「国産の原料にこだわって、本当に良いものをつくっていきたい」

現在の看板商品の一つ「ねり七味」には、有田川町のぶどう山椒が18%使われている。唐辛子や柚子、そして山椒という癖の強い原料を強く、かつやわらかくまとめ上げるのは、長崎県対馬の離島、赤島でつくられている藻塩。山の雑木林からミネラル豊富な水が海に流れ込むことで、旨味の強い塩ができるという。「おいしいものを生み出すのは、豊かな自然なんですよね」それは、そのままぶどう山椒づくりにも通じることだ。


ブームは気にせず、本当に良いものをつくっていきたい⋯

高野山と有田川町を結ぶ「山椒」ロードを

「これからやっていきたいのは、ぶどう山椒の付加価値を上げていくことです」。そのための戦略の一つとして、2020年の夏に向かって高野山の参道にアンテナショップをオープンする計画を進めている。もともとぶどう山椒は、霊峰高野山から西に延びる長峰山脈の南斜面にある旧清水町を中心に、古くから栽培されてきたという歴史を持つ。古来より高野山で提供される精進料理にはぶどう山椒が使われてきたのだ。

2004年に『紀伊山地の霊場と参詣道』に含まれる形で高野山がユネスコの世界遺産に登録されて以来、日本国内はもちろん海外からの観光客も年々増えている。「高野山を訪れた人が山椒を体験できる場所を用意したい。そこで山椒の魅力を知った人が有田川町に下りてきてくれるような山椒ロードをつくれたらいいな、と夢見ています」。

Information
株式会社 全笑

本社
〒610-1105
京都府京都市西京区大枝塚原町3-152
シャルレ桂坂1F
TEL: 075-874-3198 FAX: 075-874-3168

和歌山工場
〒643-0512
和歌山県有田郡有田川町宮川6-2

Official Site
http://www.zensho-net.com/

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